東京に住んで、東京で働いていると「ビル」は風景になります。
愛知県から転勤で上京した時に、私はたくさんのビルにびびっていたのではと思い返しています。見上げるようなビル群は、どこか権威の象徴のようにも見えます。それが自社ビルじゃなくても、「私の会社はこんなに立派なんですよ」と無言で語っているような。
特に私のように田舎から出てきた人には、非現実さえ感じる。これだけのものを作るのにどれだけの人が関わって、どれだけの面倒な手続きがあったのか。考えると気が遠くなりそう。その頃はまだ若かったし、気負いみたいなものがあったんでしょうね。
俺もなにかを成し遂げてやるぞ的な。
でもね。よく見てご覧なさい。ビルを構成するのは、鉄とガラスとコンクリートと樹脂。マテリアルを見れば家に用いられているものと大差ありません。もちろん、それらを組み合わせる技術力や建築施工に関わる労力は膨大なものですが。
ファシリティ・マネジメント
ゼネコン関係の仕事(建設資材のカタログデザイン)をしているときに、コピーライターの方と一緒に仕事をしました。その時に初めて知ったのが「ファシリティ・マネジメント」という言葉。たとえば立派なビルを建てても、それだけでは機能しません。それを維持するためには細かなメンテナンスをしなければならないのです。
・蛍光灯などの照明はどのタイミングで変えていくの?
・空調のフィルターの掃除はどうやっておこなっていくの?
・植栽の手入れはどの業者がどうやってやるの?
・エレベーターの維持管理はどうやるの?
などなど。
なるほど、建てることも大変だけど維持していくことにも大勢の人が関わっているんだなあと当たり前のことに気づいた仕事でした。
維持していくこと
私はいわゆる「作る仕事」をしています。クライアントとの接点は「制作物」という”点”です。でも、彼らはその業務やサービスをずっと続けているのですね。
どんな仕事も「大したものだなあ」という尊敬の念が生まれます。そしてデザインを作る際にも、そういう視点を大事にしたいなあと切に思っているのです。
やっぱりリスペクトがない仕事は形骸化しやすいですしね。