デザイナー羊男の毎日

日常の「気づき」のおはなし。ごゆっくりどうぞ。

書評「ドライブ・マイ・カー」

また、この作品の周りがざわつき始めましたね。

映画が国内外の受賞やノミネートで脚光を浴びています。前にざわついたのは小説の登場人物の故郷「中頓別町」からクレームがついたというあまりありがたくない話題であったと記憶しています。

タバコのポイ捨てを当たり前にするようなシーン描写が地域のイメージ悪化につながるという理由でした。今、文庫本を引っ張り出して見てみましたが、文庫の時点で「上十二滝町」になっていました。どうやら映画では「上十二滝村」となっているらしいです。実名に意味のある作家なので、ある意味リスキーなんでしょう。

 

もう一回読んでみました

せっかくなので、読んでみました。あいかわらず「ひとに勧めたくならない」小説です。

他の方のブログにも書かれていましたが、「ストーリーと呼べるものがない」。

本当にそうです。伏線がいっぱいあるにも関わらず、何も回収しないまま終わります。一般的な作法で書かれたものに比べると、「面白くないもの」という評価が下されても仕方ないかなと思います。たぶん、これが村上春樹のリアリズムなんでしょうけれど、言い訳に聞こえるかもしれませんね。

 

これは小説ではない

もともと短編作家ではないので余計にその傾向が強いのですが、ストーリーを楽しむつもりで読むとがっかりすること請け合いなんです。

妙な例えですが、雰囲気のいいバーなんかで「ちょっと面白い話があってね…」というような感じで始まる「打ち明け話」みたいなものかな。最後は「結局、どうしてかはわからなかったんだけどさ」で終わるという。

「ドライブ・マイ・カー」で言えば、詳細な部分は実はどうでもいいんですよ。

村上春樹が話したかったのは、「運転が上手いってどういうことなんだろうね」だと思います。その話題を進めるために黄色いコンバーチブルのサーブ(マニュアル)や、きれいではない女性ドライバー、舞台俳優の主人公が登場しています。けっこう入り組んだ背景の物語も、ドライバーと俳優の会話を楽しませる道具だてのような。

そう考えると、なかなか面白いテーマなんですね「運転のうまさ」。

オートマチックでナビがあって、縦列駐車ラクラク。果ては自動運転も設定されてきた現代で「運転のうまさ」ってなんなんだろう。

もしかしたら「読む」よりも「考える」ことに比重のある小説なのかもしれません。