たった今、読み終わりました。
ここのところ小説を読んでいなかったので、読むこと自体が楽しかったという感想になります。自分が小説好きだということさえ忘れていました。いかんなあ。
人に対しても自分に対しても、なんだか「役に立つこと」ばかり考えています。小説を読む行為は「役に立つこと」の対局にあるようですが、短絡的に役立つことよりもっと深いところで滋養となるものなのですね。久しぶりに小説を読んで思い出しました。
で、国境の南、太陽の西
これは間違いなく、掛値のない駄作です。何をもって駄作というかは人によって分かれるのかもしれませんし、はたして駄作が人にとって良くないとも言い切れない。
少なくとも私は楽しんで読めました。もしかしたら「駄」の部分があるから気負わずに読めたかもしれないし、読後感が何もないというのも体験として面白かったと言えます。
とにかく、「ネタばれ」するほど書く内容がありません。
自分勝手な男がいろんな女性に恋をしてすべて傷つけ、幸せな家庭と十分すぎる富を手にする。そしてそれさえも浮ついた恋のために捨ててしまおうとするが、最後は思いとどまって、めでたしめでたし。それだけのお話です。様々な伏線もまったく回収しようとするつもりもなく、ワクワクがすべて肩透かしというのはある意味お見事といえましょう。文体は過剰にオシャレでスノッブ。そうハルキ節全開なのです。
しかし、もし教訓めいたことを書く気があるならこの主人公はかなりこっぴどい目にあわなければ辻褄があわないんじゃないかな。まあ、そこが村上春樹たる所以であり、「読むこと自体が楽しい」村上ワールドなのですね。
あと、村上春樹が得意とするのは長編(2巻以上あるもの)だと思います。
これは自分でもエッセイに書いていました。長編か軽い短編が真骨頂であって、今作のようなものは中途半端になりがちなのかもしれません。
何だろう、この人に話したい感じ
前の記事でも書きましたが、私は村上春樹の小説のファンです。ハルキストというほどではありませんが、少なからず影響は受けているしリスペクトもあります。
じゃあこの駄作扱いはないだろうと言われそうですが、そういうところも含めて楽しめるし、ハルキ好きの友人や同僚と作品について話すことが面白いのですね。
そういう不思議さが、たぶんこの本にもあるのだと今表紙を見ながら考えています。
ただ、もし「いっちょ村上春樹でも読んでみるか」というビギナーがいるのなら、この小説はやっぱりおすすめできません。この内容のなさはあまりにもヒドイし、官能的な表現は気分を悪くされる方も多いかと。老婆心ですが…。(逆に読みたくなる?)
かといって、オススメをチョイスするのも難しいのですね。
厳密には小説とは違うけど「回転木馬のデッドヒート」がいいかもしれない。
短編で全部村上春樹が「人から聞いた」話なんですが、こういうのはホント絶品です。