デザイナー羊男の毎日

日常の「気づき」のおはなし。ごゆっくりどうぞ。

人生の余白

デザインの仕事をしていると、余白についてよく考えます。

単純に経済的効率を考えるなら、余白なんかないほうがいいワケです。

A4サイズの紙を2枚使っていたところを、1枚にすれば紙代と印刷代は安くなります。資源のことを考えれば地球にも優しいし。

余白をなくしてギチギチに詰めていけば、理論的にそれは可能です。

 

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余白は作るもの

ここでちょっと歴史のお話を…。

印刷の変遷を遡ると、「活版印刷」が祖先となります。ドイツのヨハネス・グーテンベルクが14世紀に発明しました。

枠の中に活字(文字のはんこ)を組んでいくことを「組版」といい、例えば名刺なら55mm×91mmの枠に名前の活字を組んでいきます。で、活字の凸の部分にインクをつけて紙を押し当てる印刷方法です。ちょっとへこんだ紙の風合いが味わい深いと一部の若い人にも人気があるようですね。以前私の働くオフィスがあった新富町では数は少なくなりましたが、戦前からの活版の職人さんが現役でがんばっています。

で、その活版印刷なんですが、枠と活字の間に木の「詰め物」を入れていく作業があるのです。仕上がった印刷では見えませんが、「余白」はあらかじめ作るものだということがここからおわかりいただけるかと思います。私は活版印刷の経験はありませんが、レイアウトをするときに、この「余白を作る」という感覚があります。

 

読みやすさと品

ではなぜ余白は必要なのでしょう?

すべてが文字で埋め尽くされた紙面をイメージしてもらえば、その読みにくさは想像に難くない。まず紙端から少し空けなくてはいけないし(これをマージンといいます)、行と行の間も必要です。要するに「読みやすくする」という機能の問題です。

そしてもう一つが「品」です。ぎっちり詰まったものは経済効率はいいですが、品がないと言えます。では、すべてにおいて品が必要かといわれるとそうも言いきれない。

スーパーのチラシなんかは、余白をなくして写真と文字が重なっているくらいのほうが、にぎやかでモノが豊富にある雰囲気になります。居酒屋のメニューもそうですね。

余白をとってきれいに並べるより、所せましと「もろキュー」や「ぼんじり」がひしめきあっているほうがなんだか美味しそうです。

一方で、名刺やフォーマルな文章を載せたものはやはり「品」が必要になります。余白をしっかりとっていることで「気持ち的な余裕」を感じさせる効果がありますし、信頼感もアップします。

「実を取るか」「品をとるか」で余白というものを考えていくことが肝要といえます。

 

人生の余白

同じ文脈で、人生にも余白が必要なんじゃないかと思います。

旅行がいい例ですが、スケジュール満載のものより「なんでもない時間」があったほうが想い出になるような気がします。

ある程度は余裕がないと「品のない人」になりそうですしね。

そんなことを、ふと思ったのでした。では。

 

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