デザイナー羊男の毎日

日常の「気づき」のおはなし。ごゆっくりどうぞ。

ハルキ文体について ~あるいはムラカミ文章の変態性に関する考察~

他の方のブログで「村上春樹は文章のリズム感を大事にしている」という記事を読み、すごく腑に落ちたというか、納得しました。

今の1文。お気づきになりました?

「腑に落ちました」で終わってもよかったのですが、もう少し伸ばしたほうがリズム的にいいかなと思ったのです。ちょっと音楽的な考え方ですが、息継ぎや拍子がとりやすい句点の打ち方や文節の長さがあるんですね。たぶん。

私は音楽はズブの素人なので理論的に言えませんが、文章はたくさん書いているほうなので感覚的にはなんとなくわかります。

でもコントロールはできないんだな、これが。だからブログにもムラがあります。

うまくリズムに乗れているときは、筆の進みもいいし、あとから読んでも気持ちいい。この気持ちよさが内容よりも大事だったりします。

思えば村上春樹の小説も、ストーリーよりも「文章の気持ちよさ」を好んで読んでいました。(ストーリーのほとんどが最後は投げっぱなしが多くないですか?)

 

ハルキ文体の特徴

ネットの世界でも村上春樹はよくパロディとして使われます。

それだけ小説家としては異例の存在だし、画期的な文体は「発明」と言ってもいい。一方、ハルキ以前の小説家からは「文章の変態」と揶揄されるのも頷けます。彼らが守ってきたセオリーがいとも簡単に壊れるのですから。

特徴としては前出のリズム感がまずそうですし、固有名詞がやたら出てくる。

これ、星新一(なつかしい)の逆パターンなのです。星新一が匿名を徹底して(N国とかA氏とか)想像力にゆだねるスタイルを貫いたのに対して、ハルキは固有名詞で世界観を醸成しています。

特に音楽(洋楽レコード)のタイトルがやたら出てくる。これはハルキ以前の作家にとっては「反則」に思えたでしょうね。だって、レコードを知っている人には音楽が聞こえてくるワケだし、知らない人もタイトルだけでイメージが広がったりしますから。

選出も巧妙で、ビリージョエルやビートルズが多いかな。

「僕は、ブルース・スプリングスティーンのボーンインザUSAを聴きながら歯を磨いていたところだった」

この1文で主人公の趣味や性格、精神状態までイメージさせてしまいます。うん、確かにズルい。

 

ハルキ小説の主人公は

やたらお酒を飲みます。それもだいたいビール。村上春樹が呑兵衛かは知りませんが、まるで何かに復讐するかのように主人公にお酒を飲ませます。

「やれやれ。僕は4本目の缶ビールをあけた」

そう、渡辺昇(よく使う名前)は本当によくビールを飲むのです。

短編では目立たない本好きの青年か、ちょっと皮肉屋のクールな男が多いかな。

話し言葉がたまに「」でくくられずに、 明日になればなんとかなるさ。 という感じで表現されるのも特徴の一つ。

で、とにかく彼らの「言葉のやりとり」が単純におもしろいのです。

 

好きなのは「ノルウェイの森

タイトルからしビートルズの楽曲タイトル。

そして内容は暗いけど(病院や精神の治療施設の描写が多い)、すごく緻密に情景が浮かびます。そしてハルキ作品の中で最も純度が高いというか、余計な要素が入っていないと感じます。何度も読み直してボロボロになって、新たに購入しなおしたくらい好きですね。短編では「パン屋再襲撃」の中の「ファミリー・アフェア」。

「羊男のクリスマス」と思った人、残念でした。

 

最後に

村上春樹ファンというと「おしゃれですね」と言われることがありますが、ぜんぜんそんなことないです。下ネタは多いし、小説のセオリーから外れているし。まあ、あまり人には言いませんけどね。

ただ、文章好きの私にとっては定期的に読んで「退屈しない、いい時間」が得られる他にない小説だということです。影響も知らないうちに受けているのでしょうね、きっと。