Y君は私の息子くらいの年齢で、入社時も私が面接しました。
とらえどころのない宇宙人みたいな面と、すごく常識人の面、両方を持ち合わせていてそれが彼の中で矛盾なく同居していました。
面接の前に、彼が面接シートに記載したブログを見て、「なぜ、これを面接シートに?」という疑問が浮かびました。
ブログのタイトルは「私のグミに関する考察」みたいなもの。他愛もない内容ではありますが、意外と観察が鋭くて面白い。ただ、所々「クソまずい」とか「死んで詫びたい」とか、表現が過激というかやはり面接官に「どうぞ」と言えるシロモノではないと率直に思いました。
それが本人に会ったら、「ああ、なるほど」と納得がいったんです。別に彼が特別なことを言った訳ではなく、単なる印象がリアルな実像により固まったというか。あまりうまく言えませんね。
でも「こいつを入れたほうがいい」という直感が私の中にはありました。それは、決して偉そうな上目線からではなく、お互いに助け合える「いい関係」が築けるんじゃないかという期待と予感です。
彼が入社すると、私の期待以上の成果をあげてくれました。彼もデザイナーですが、システムやIT系に強く、自分の実力におごらないところが美点だと思います。
よく冗談で「本当は俺、君のことが怖いんだよ。わかってる?」と言うと、ただニヤニヤ笑っていました。
また、判断が早く「ここを掘っても何も出てこない」ところは掘らない。無駄な努力を嫌うところは私との共通点で気が合っていました。ちょっとあきらめが早いところは直していくつもりで。彼への私の口癖は「楽しんでいこう」でした。
彼のデザインは、明解で無駄がなく私のアドバイスもきちんと取り入れた、秀逸なものでした。それは今でもそう思います。
そうした中、人事異動の必要性を考えなければいけない時期が来ました。
私は管理職として彼に移動を言い渡しました。移動は入社条件にもあったものです。
何度も話し合いがあり、彼は会社を去る決意を申し出ました。
聞けば友人が新しく立ち上げる会社の一員としてがんばりたいということでした。遅かれ早かれ、辞めることにはなったのですが、それを早めてしまったことは私に後味の悪さを残しました。
仲のいい彼の職場の先輩(部署は違う)をちょっと避けていたことがあり、「どうしたの?」と聞くと、「彼の課長(私)に対するタメ口が気に入らない」と赤くなりながら言ってくれて、なんだかうれしかったことを思い出します。(私はタメ口は全く気にしていませんでしたが)
彼が会社を辞めて、「人がいなくなること」をあらためて実感しました。
本当に穴があいたようにそこに空間が生まれていました。「無」が在るという奇妙な感覚です。しかしそれも、時が経つにつれなくなっていきます。結局、空間ではなく記憶の中からいなくなることが、人が辞めるということの最後なんだと思います。
よく、「感謝しかありません」という言い回しを耳にしますが、私には上っ面の言葉に聞こえてしかたありません。私には彼へのいろんな感情があります。
いつか、仕事やプライベートや趣味や、そんな話が彼とできたらいいなと本当に思います。